「60万円のドレスは生産過程に対しては適正価格。もちろん高額で誰もが購入できるわけではない。ブランドを通して提起することによって、消費者や業界が問題へと向き合い、少しでも改善していければと願っている。消費者にとって”ラグジュアリー”が視覚的な美しさだけでなく、製品が丈夫で長持ちし、喜び、優雅さ、そして環境に優しいといったすべてにおいてポジティブな選択肢になることを目指しているんだ」と自身のヴィジョンを語った。
“ダウン”のモンクレールが進化、8人のデザイナーによる8つ
最近ではミレニアル世代の若手デザイナーもアップサイクルに取り組んでいる。17年「LVMHプライズ」でグランプリを受賞したフランス発のウィメンズブランド「マリーン セル」は、シーズンをおうごとに全製品に対しての古布の割合を高め、18-19秋冬コレクションでは100%古布のドレスを制作した。また、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」新アーティスティック・ディレクターに就任した「ボッター」のデザイナーデュオ、32歳のルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)と28歳のリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)は海洋の環境問題について提起しており、一部古布を使って製品を生産している。
彼らの製品を見ると、従来のエココンシャスなブランドが持つ、デザイン性に欠けた野暮ったいイメージは払拭されるはずだ。一見エコには見えないような、現代的でモードな空気感のある攻めたデザインは、新しい世代だからこそ創ることができるのかもしれない。ヨーロッパではエコブランドの市場が広がったことで価格帯が下がり、デザインも洗練され、消費者は背景を含めて良質なものを求める傾向が強くなっている。
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「結果的に何が正解なのかを見極めるのは難しい」とケンプは言う。「例えばリアルファーを廃止してエコファーに代用するブランドは増えたが、化学物質のファーを生産する過程はリアルファーの何十倍も環境負荷がかかる。石油から合成したエコファーは土に還すことも難しく、地球に優しいとは言い難い。リアルファーについては、毛皮以外の部分を食用や、化粧品原料や飼料、肥料として無駄なく一つ命を頂くのであれば、エコファーよりも長持ちするという点から見ても、倫理的だと考えられる」とケンプは持論を展開する。これに対しては賛否あるかもしれないが、ここで明確なのは物事は複雑だということ。多角的な視点を持って事実を考察しなければ、本質は見えてこない。「消費者である一人一人が考えて行動しなければいけない。”絶対に正しい”という答えは存在しないかもしれないが、情報と知識を身につけ、自分なりの答えを導き出してみて欲しい。手遅れになる前に」。